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異国の地に暮らす祖母

昨日、祖母のお見舞いに行くと、祖母は眠っていました。

とんとん、と身体を叩いて起こすと、祖母が私を見て、びっくりした顔をしました。

目に涙を溜めて、それはそれは驚いた表情をして、私も戸惑ってしまいました。

もうほとんど出なくなった声を懸命にふりしぼって

「びっくりした」

「びっくりした」

としきりに繰り返すのです。

寝起きで驚かせてしまったのかと思ったのですが、どうやらそうではない様子。

「どうやってこんなところまで来たの?」

「飛行機で来たの?」

と聞いてくるのです。

祖母が入居しているホスピスは、私の自宅の最寄り駅から数分のところ。

どうしてそんなことを聞くのか、私にもさっぱり分からず、答えに窮してしまいました。



よくよく話を聞くと、どうやら祖母は、自分が外国にいると思っているようなのです。

そして、遥々と私が訪ねてきたと思って、目に涙を溜めて驚いていたのです。

つい数週間前までは、身体が不自由になっても意識は割としっかりとしていました。

それが、だんだんと目も見えにくくなり、声も出しにくくなり、手も動かせなくなり、身体の自由がきかなくなるにつれて、意識もぼんやりとしてきてしまったようです。

こんなに急激に症状の悪化が進むとは、思っていませんでした。

ある程度は覚悟していても、もうしばらくは小康状態が続くのではないかと期待していたのです。



祖母は、海外旅行はおろか、飛行機にも乗ったことがありません。

それなのに、どうして自分が外国にいると思うようになったのかは分かりません。

病院からホスピスに移り、環境が変わったことで、不安になってしまったのでしょうか。

個室で一日のほとんどの時間を一人きりで過ごし、孤独を感じてしまっているのでしょうか。



私の母はほとんど毎日ホスピスに顔を出しているし、私も数日おきに顔を見せています。

それなのに、「遥々会いに来た」と涙するほど驚くだなんて、祖母の意識の中では、ずっと一人でいた気がしているのかもしれません。

「昨日、お母さん来たでしょう?」と祖母に私の母のことを尋ねると、「ここには来たことないよ。」と言っていました。

私は「そんなはずないよ、毎日来てるよ。」とは言わずに、「そっか。」とだけ答えました。

誰も来ないと思い込んでいる祖母が、とても気の毒で、胸が痛くなります。



でも、落ち込んでも仕方ないので、自宅に帰って母に祖母の話を報告しながら

「飛行機にも乗ったことないのに、外国に行った気になれてよかったね。」

と二人で笑い飛ばしました。



ホスピスを出るときに、手を握って「もう帰るね。」と別れ際の挨拶をすると

思いのほか、しっかりとした力で私の手を握り返しながら

「夢みたいね。本物なんだね。」

「ありがとうね。」

と見送ってくれました。



次に会う時には、何を覚えているのでしょうか。

いろんなことを忘れてしまっても、また遠い異国の地に暮らす祖母に会いに行きます。


  2012 08 20_2819 
2012年8月 祖母と2人で出かけたレストランにて
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